「……羨ましいです。私にはそんな友達はいないから」


いつも隠すことばかりで、自分をさらけ出したことなんて一度もない。

むしろ、受け入れてくれる人なんているのかな。


自分でも引くようなえぐい傷痕を、なんの躊躇もなく触れてくれる人が現れたら……って、私はなにを考えてるんだろう。

きっと私の身体は誰が見ても同じだ。

クラスメイトたちみたいに好奇の目をしながら、私から離れていくに決まってる。


「俺はサユちゃんのこと友達だって思ってるよ?友達になろうよ。それにヒロの恥ずかしいエピソードもいっぱい知ってるし、サユちゃんに特別に教えてあげる――」

奏介くんの言葉が言い終わる前に飛んできた蹴り。


「余計なこと言ってんじゃねーよ」

それは電話を終えて戻ってきたヒロだった。


「痛いな、もう!」

奏介くんは蹴られた背中を触る。

「うるせーな。お前はさっさと火の準備でもしてこい」と、ヒロは先ほどのライターを奏介くんへと返した。


「はいはーい」

奏介くんが座っていた腰を上げると、交代するようにヒロはその場へと座り、距離は奏介くんの時よりもだいぶ近い。

それでも、やっぱり私の心臓は静寂の海のように穏やかだ。


潮風に混ざり合うようにふわりとヒロの匂い。

きっとヒロは香水も整髪剤も使っていないのに、どうしてこんなに私の心を引き寄せるような香りがするんだろうか。