最初はまだ加減があったと思う。
けれど次第に日常的な苛立ちを私に当たりはじめて、叩くことから殴られることに代わり、蹴られたり物で打たれたりしたこともあった。
男いわくそれは〝しつけ〟と言っていたけど、私を殴る目に愛情なんてひと欠片も存在しなかった。
そんな殴られ続けている私を母はいつも黙って見ていた。きっと私の味方をしたら自分が捨てられると思ったのだろう。
エスカレートしていく暴力に、私は心までズタズタにされてしまった。
そしていつも浴びせられる『お前なんていらない』と言う男の言葉。
私は単純にふたりの邪魔だったんだと思う。
『外に出てろ』『ベランダで寝ろ』『もう家に帰ってくるな』そんな理不尽なことばかりを言われて、そんな地獄みたいな生活は中学2年まで続いた。
それから高校受験を控えて、私は逃げるようにおばあちゃんの家で暮らすようになった。
今は暴力に怯えることはなく、新しい傷も増えないけれど、心に刻まれた恐怖心はなくならない。
そのせいで、私はすっかり男という生き物がダメになってしまった。
あの低い声も、大きな体格も、ゴツゴツした骨格や身長差も、なにもかもが威圧しているように感じて、男が近くにいるだけで、息が吸えなくなる。