「ねえ、成瀬さんの話聞いた?なんか身体中ヤバかったんだって」
「もしかして虐待の痕とか?よくニュースとかでやってるじゃん」
「マジで?そんな人が身近にいるとかビックリ」
「可哀想ー。だから成瀬さんって、なんか影があるんだ」
「うちらとは違うっていうか、うん。なんか色々納得した」
一度流れた噂は瞬く間に広がって、私は逃げるように屋上にいた。
私はため息をつきながら、空に浮かぶ雲をぼんやりと見上げる。
……いつか、こんな日がくるとは思っていた。
でも、そんな日が来ないように必死で今まで隠してきた。
噂話の内容は私の予想どおりで『だからいつもパーカーで肌を見せないんだ』と同情して。でも、饒舌になめらかに口はペラペラと動く。
可哀想と言いながらも、みんな好奇心のほうが強いことは分かっている。
ああだこうだと、私の身体中の傷痕は絶好の面白いネタなのだろう。
私の苦しさは置いてけぼりで、私の名前なんて普段は出さないくせに、『成瀬さんが、成瀬さんは』と名前を連呼される。
……気持ちわるい。せっかく食べた朝ごはんをもどしそうになって、口元を抑える。
いいことがあったと思えば、すぐに悪いことが起きて。神様はすごく私に意地悪だ。
ポケットの中でスマホが振動していたけれど、画面を見る余裕なんてなくて、私は膝を抱えてただ小さくなっていた。