「ハア……ハア……ッ」

家に着く頃にはかなり息が上がっていた。


二階にある自分の部屋へと向かい、汗でベタついているパーカーを脱ぎ捨てる。

そして息苦しい胸元のリボンを外して、ふと視線をずらすと全身鏡が目に入った。


腕が見えている半袖の夏服。そこには肌色とは別に赤黒くなっている火傷の痕。

これは小学生の時に熱湯をかけられた時のものだ。その他の斑点模様はタバコを押し付けられた痕。

腕だけじゃなく私の身体にはまだたくさんの消えない痕跡がある。


私は母の再婚相手だった人から5年間、暴力を振るわれていた。


突然、男が家にやって来たのは小学四年生の時。

なんの前触れもなく母からは『今日からお父さんになる人よ』と紹介されて、男は『よろしく』と笑った。


それから居心地がよかった家は三人暮らしになってからガラリと変わった。


母と小さい頃から一緒に寝ていた部屋は男と母のものになり、私は一年中出しっぱなしだったコタツが布団代わりになった。


母と男は恋人同士のようにふたりで出掛けて、帰りが遅くなることもあったし、私の晩ごはんはいつもインスタントのカップラーメンだった。

そんな生活が1か月ほど続いたあと、些細なことで叱られて私ははじめて男に叩かれた。