「……あ、ありがとう」
今日はお礼を素直に伝えることができて、ヒロの返事は「ん」と一言だけ。
なんだか帽子で私の弱さも一緒に隠してくれた気がして、唇を噛みしめる。
帽子を取ったヒロは前髪が上がっていて癖がついてしまっていた。だから顔がいつもよりはっきり見えて、不覚にもなんて綺麗な顔をしているだろうって思った。
金髪が海風に揺れて、瞳にも水面の輝きが反射している。身体は大きくて砂浜に映る影さえも男らしいのに、何故かその横顔は儚い。
「……ヒロって、呼んでもいい?」
気づくと私はそんなことを言っていた。
心の中ではすでに呼んでいたけれど、なんとなく聞いておいたほうがいいと思って。
「好きに呼べば」
わざわざ聞くなよって顔で、ヒロはクスリと笑う。
海の風が私の髪の毛をさらう。ヒロとの距離は簡単に触れ合えてしまうほど近い。
それが、どんなにすごいことなのかヒロは知らないだろうね。
私たちの影が同じ方向に揺れる。それだけで、泣きそうになる私は、なんて弱いのだろう。