「おい、ふざけんなよっ!」
後ろから低い声がして、私はビクッとした。
振り向くと、そこには海岸沿いを歩くカップルの姿。どうやらふざけてただけのようで「あはは、ごめーん」の女の子は謝っている。
……なんだ、ビックリした。
やっぱり、そう簡単には克服できるはずがない。
こうやってゆっくりとした時間を過ごしていても、頭の片隅にはいつだってあの5年間があって、ことあるごとに怯えながら私はこれからも生活していくんだと思う。
そう考えただけで、また傷痕が疼いた気がして、私は腕をぎゅっとした。
「これ被っとけ」
「え、わっ……」
すると突然、ヒロが自分の帽子を私の頭に乗せた。
ヒロだとピッタリだったのに私が被ると少し大きくて、調整しないと目の場所まで下がってくる。
「また具合悪くなられたら困るから」
不器用にそう言いながら、残りの炭酸を一気に飲み干す。もしかしたら、私が暗い顔をしてたから気を遣ってくれたのかもしれない。