奏介くんはそのあと飲み物でも買ってくると言ってくれて、「お前はセンスがないから俺も行く」と、ヒロもついていった。

ひとりになった私はスカートが汚れることも気にせずに、砂浜へと座る。


目の前に広がる海の水面がダイヤモンドのようにキラキラしていて、空にはカモメも声を出しながら飛んでいた。


ここは〝うしお浜〟という場所。駅を降りてすぐに海があるから、納涼スポットとしても有名で、たまにテレビでも取り上げられている。


遊泳禁止の私が住んでいる街とは違い、ここは来週になれば海開きもされる。

きっとその頃になればかなり人で賑わうと思うけれど、海開き前の今日は全然人がいなくて、まるで海を独り占めしてるような気分になってくる。


……はあ、気持ちいい。

私は空を見上げて息を深くはいた。


夏は嫌いだし、暑さしか与えない太陽も好きじゃない。

でも今はこのジリジリと砂が焼ける匂いもスッと身体の中に入ってくる。


そういえば、日中に海に来たのは初めてかもしれない。おばあちゃんの家に住むようになってからは家と学校を往復して、夜は海に行くという同じ行動パターンしかしてなかったから。


夜の海はいつも孤独で、暗い波に吸い込まれそうになるのに、今は潮風に吹かれながら気持ちいいなんて思ってる。

……不思議だ、こんな感覚は。


それと、もうひとつ。私は自分の手のひらを見つめて、バイクに乗った時のことを思い出していた。

まだヒロの身体の感触が残ってる。


『お前なんていらない』『目障りだ』『消えろ』

そうやって私を痛めつけた男とは違った。

まさか、あんなに身体を密着させても平気だなんて、自分でもビックリしてる。


「手になんかついてんの?」

声がしてハッとすると、ヒロが飲み物を持って戻ってきていた。