ヒロは言っていたとおり、緩やかなスピードで走ってくれた。顔を横切る風や流れていく景色が心地いい。
国道を走ること約30分。先頭を走っていた奏介くんのバイクが海岸沿いに停まっていて、合わせるようにヒロも並んで停車させる。
ヘルメットを取ると、なんともいえない解放感があって、それと同時にふわりと潮の香り。
「おーい!こっち」
すでに砂浜にいる奏介くんが私たちを手招きしていた。
「……ったく。大声で呼びやがってガキかよ」
ヒロは呆れた顔をしながら、ヘルメットをハンドルの右側へとかけて、私が被っていたものは左側にかけてくれた。
ヘルメットから帽子に変わったヒロはやっぱり後ろ被りをして、スニーカーをザッザと擦る歩き方はどうやら癖のようだ。
「なにボケッとしてんだよ。行くぞ」
「え、ああ、うん」
私も追いかけるように歩きはじめた。
砂浜の砂は柔らかくて、太陽に当たっているせいで靴からも熱い温度が分かる。
奏介くんはビーチサンダルから裸足になっていて、押し寄せては引いていく波に「冷たっ」と言ってはしゃいでいる。
……なんだかとても無邪気な人だな。
見た目とのギャップにまだ戸惑うけれど、誘ってくれなかったら私は今頃憂鬱な学校にいた。
「ふたりも裸足になれば?」と、奏介くん。
「いや、いい」「いや、いいです」とヒロと声がピタリと重なってしまった。顔を見合せて、先に目を逸らしたのは私。
「もう、つれないなー」
奏介くんは残念がっていたけど、私はなんだかハモッてしまったことが恥ずかしい。