「ちゃんと足かけろよ」

「あ、足どこに?」

「そこのステップのとこ」

ステップがよく分からないけれど、なにやら突起物を見つけて、私は足をその場所に置く。身体が安定したところで、「ヘルメット」と言われて、ああ、と慌てて被った。


初心者丸出しだけど、初めてなんだからしょうがない。

ヘルメットはけっこう重くて、この重力がかかってる感じも初めての感覚。


ヒロはバイクのエンジンをかけた。エンジン音がお尻から振動してきて、奏介くんのとも合わせると、やっぱりかなり音はうるさい。

先に走り出したのは奏介くんだった。ブーンと、バイクは道路へと出て、すぐに私たちと離れていく。


「しっかり掴まっとけよ」

ヒロがハンドルに手をかけながら、首だけを私に向けた。


掴まるって、どこを掴んだらいいのだろうか。

手が明らかに迷っていると「あんまりスピードは出さねーから」と言って、私の手を誘導するように自分の腰へと回す。


ドキッとした。

怖いはずの男に触れているのに、不思議と安心感のようなものが芽生える。


しっかりとした体つきに洋服から伝わってくる体温。

ヒロがバイクを発進させると必然的に身体はもっと密着して、気づけば私はヒロの背中にピタリとくっついていた。


……あったかい。


こんな風に人の温もりを直接感じたこと。広い背中が怖いものではないこと。

ヒロのTシャツからは私の知らない香りがして、男の子がこんなにもいい匂いがすることに驚いた。


なんでだろう。怖くない。ヒロは怖くないや。