「あれ、サユちゃん?」

フラフラとした足取りで学校に向かっていると、誰かから声をかけられた。ビクッとする暇もなく、その人は笑顔で近づいてくる。


「やっぱりそうだ。俺だよ、俺」

派手な柄のシャツに前髪をワックスで上げている人物は自分のことを人差し指で指指しながら私の警戒心を解こうとしていた。


そういえば昨日の夜に【ヒロから名前聞いたよ】なんてメールが届いていたっけ?

もちろんなんの返信もしなかったけれど、こうして話しかけてくるということは、無視されている感覚はないのかもしれない。


「大丈夫?顔色よくないよ?」

「……平気、です」

顔を覗かれるのは好きじゃない。それに今は夢の余韻がまだ消えていなくて、どうしてもあの男の存在がちらつく。


私が露骨に下を向いても、あまり気に障らないようで、「ってかサユちゃんって勝手に呼んじゃってるけどいい?俺のことは奏介でも奏たんでもなんでもいいからね」と、続ける。

これは冗談なのか本気なのか、よく分からないけれど、愛想笑いもできない私はひどく態度が悪く見えていると思う。と、そこへ……。


「キモいんだよ、お前」

その言葉と一緒に足蹴りが飛んできて、それは奏介くんの背中に当たる。衝撃でよろけた奏介くんは「痛いな。優しく」と振り返った。


そこにいたのは、コンビニから出てきたヒロだった。