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次の日。気温は30℃越えの猛暑日だった。
コンクリートの通学路には陽炎が浮いていて、セミの声があちこちで響いている。
学校までは10分ほどだというのに体力の半分は消耗するし、なにより半袖になれないのがキツい。
教室に着くとクラスメイトたちはみんな「あつー」と、うなだれていて、教科書をうちわ代わりに扇いでいた。
私の席は窓際の一番後ろで、外の空気を直に感じることができるけど、窓から入ってくるのは生暖かい風だけ。
私もとりあえずノートで扇ごうとカバンを開けた。すると中に入れていたスマホのランプが点灯していて、ブルーということはメールだ。
画面をタップしてすぐに確認すると……。
【おはよう。今日も暑いね。昨日は聞けずに帰っちゃったけど、名前教えてー。このままだと名無しちゃんになっちゃうよ】
文末には悲しい顔文字つき。それは昨日無理やり連絡先を交換させられた奏介という人。
……まさか本当にメールしてくるなんて思ってなかった。
そもそもスマホに誰かから連絡がきたこと自体久しぶりだ。スマホが鳴る時なんて朝のアラームか、たまに届く迷惑メールぐらいだから。
私は少し悩んだけれど、返信をしないでスマホを暗くした。
文字だったら性別なんて見えないし、心臓はバクバクしない。それでも男はやっぱり無理だから、返事を返す気にはなれなかった。