もちろん私はなんの反応もしなかったけれど、穏やかな口調とは逆にエンジンはうるさくて、その姿が駅から離れても暫くはバイクの音が耳に響いていた。

そして静かになった頃、ヒロは眠そうにあくびをして、私から離れる。


ザザッと乱暴にスニーカーを擦るような歩き方をして、返ってきたスマホを確認するようにスクロールしていた。

その帰っていく姿に私はやっと肩の力を抜くことができた。


……ようやく解放された。

それにしても、勝手に交換された連絡先はどうしよう。


男の名前が登録してあるってだけでもなんとなく落ちつかないし、今すぐにでも消去してしまいたい。

「はあ……」とため息をつきながら、私はとりあえず歩きだす。

色々と想像してないことばかりが起こったけれど、なんとか乗り切ったし、もう男と関わることはない。

そんな安心感もつかの間に、「あれれ?」と、わざとらしい声が背後で聞こえた。


「もしかして、昨日の子じゃん」

振り返ると、そこにいたのはまたしても晴丘の制服を着た男子。しかもこの気持ち悪い薄笑いはコンビニで私に声をかけてきた連中だ。