「じゃあ、俺がヒロの代わりにお礼するから連絡先教えて」

顔を覗きこむように言われて、ドクンとまた動揺する。


「だ、大丈夫……です」

なんとか声を出したけれど、どうやら小さすぎて聞こえなかったらしい。


「スマホ貸して。交換しよう」

ああ、なんでこんな展開になっちゃったんだろう。イヤです、とはっきり言う勇気はないし、この私の反応を待たれている時間がとても苦痛だ。


『モタモタしやがって!』

いつも私が躊躇するたびに浴びせられていた罵倒。

口答えをしたら殴られて、反抗したら容赦なくお腹を蹴られる。そんなトラウマから、私はゆっくりとスカートのポケットからスマホを出した。


「じゃあ、交換ね」と、無理やりスマホを奪われて、なにやら勝手に操作をされている。

その隣でヒロという男が呆れた顔をしていたけど、止めたりはしなかった。返ってきたスマホには【奏介(そうすけ)】と電話帳に追加されていた。


「俺はなんて登録すればいい?」

そう聞かれたところで、「つーかお前、時間ヤバくねーの?」とヒロがため息。

「うわ、本当だ。先輩に怒られる」と、慌ててバイクのほうへと戻っていって、「またね」と手まで振られてしまった。