「ちゃんと生きてサユ。俺のぶんまで生きて、それで、いつかまた一緒にバイク乗って海を見にいこう」
ヒロがゆっくりと身体を離した。
「約束だ」
差し出された右手の小指。
ヒロはいつも私のことばかり。
きっと心配でたまらないと思うけど、ヒロの最後の約束を受け止める強さなら、もうヒロが私に教えてくれた。
「うん、約束」
私たちの指が、強く重なった。
ねえ、ヒロ。
あのひとつになった夜に私は夢を見たんだ。
ヒロと砂浜に座って、こんな風に海の音を聞きながら他愛ないことを笑いながら話している夢。
私の願いはたったひとつ。
ずっと一緒にいたいとか、おじいちゃんおばあちゃんになっても傍にいたいとか、そんな贅沢なことは言わない。
ただヒロと隣に並んで、笑い合えたらそれでよかった。
世界に、きみさえいれば、それでよかった。
ヒロの願いはなんですか?
私は少しでも、きみのためになにかできましたか?
迷って悩んだヒロの10年間にもう、答えは出ましたか?
生きててよかったと、ヒロが思っていてくれますように。
きみに後悔が、ありませんように。
どうか、どうか、
ヒロが最後まで、笑っていられますように。