……え、う、嘘でしょ?
すぐに逃げようとしたけど、彼の歩幅のほうがはるかに広くて、あっという間に距離を縮められてしまった。
「おい」
ピタリと私の前で止まった足。
顔なんて上げられるわけがない私は彼が履いている履きつぶされたスニーカーをただ見つめるだけ。
ドクン、ドクン、と息苦しくなってきたけれど、やっぱり声を出すことはできない。
……昨日から災難続きだ。なんなの、本当に。早くどこかに行ってよ。
私はうつ向きながら、ぎゅっと男の恐怖に耐えていると……。
「お前だろ。昨日海にいたの」
「……え?」
その言葉に思わず顔を上げてしまった。
再び、目が合ってドキリとする。
他の学生たちより高い身長と広い肩幅。制服を着ているけれど大人っぽい顔つきに、やっぱり目立っている金の髪の毛。
私を見下ろしている瞳には見覚えがあって、私はようやくこの人が昨日のヒロだと気づいた。
「ん」と、何故か私に向けられている手のひらまでもが大きくて、目の前の人が男だと再認識させられる。
……晴丘ってことは、同じ高校生だったんだ。
てっきり大学生か、もしくは二十歳を超えてる人だって思ってた。
「あのさ、俺のスマホ」
そう言われて、私は慌ててカバンからスマホを取り出した。
なにも言わずに手渡すと、確認するように両面を見て「壊してねーだろうな」と、また鋭い目付き。
私は無言で首を横に振りながら、怖さで指先はまたひんやりとしていた。