すると、ヒロはゆっくりと語るように唇を動かした。
「……姉貴から聞いてるかもしれないけど、俺の今の心臓は自分のものじゃないんだ」
ヒロの声は今まで聞いたことがないぐらい小さくて、打ち寄せては砂をさらっていく波の音がやけに大きく感じた。
「8歳の時に移植手術したって聞いたよ」
「うん。俺さ、手術受ける前はずっと病院暮しで、まだガキだったし、病気の深刻さとかもよく分かんなくて、それなりに同じ小児病棟にいたヤツらとは仲良くやってたんだけど、そんな中で毎日ひとりずついなくなって。ああ、またアイツも逝ったんだって、次は俺の番かもって思えるぐらいの知識はあった」
ヒロが息もつかないほど一気に言葉を吐き出した。
もしかしたら、そうしないとヒロの中で打ち明けることへの迷いが生まれてしまうからかもしれない。
「そんな時に同じ病室に入院してきた子がいて、同い年の女の子だった」
その言葉を聞いて頭に浮かんだひとつの顔があった。それはヒロに内緒で見せてもらった写真に映っていた可愛らしい女の子。