それから数日が経って、ヒロの微熱が落ち着いたタイミングで私たちは夜の海へと来た。

夜空には部屋から見える天窓よりも広大な星空が浮かんでいる。こんなにキラキラと星が綺麗な夜はロマンチックに星座の話でもしたいのに、私たちの間に流れる空気は重い。


「お前、あの時もそうやって険しい顔で海を見てたよな」

砂浜で膝を抱える私を見てヒロが言う。


「……あの時?」

「初めて出逢った時だよ」


あの頃の私は、いつも夜の海に来ては自分が消える日を選んでいた。そうやってこの穏やかな波のように音もなく誰にも気づかれずに死にたいと思っていた。

そんな時にヒロに出逢って、私は初めて人の暖かさに触れたのだ。


消えたいと思っていた私が、消えたくないと思うようになって、消えてほしくないと思う大切な人もできた。

そんな風に私が変われるなんて、想像もできなかった。



「……もしかしてヒロもこの場所に来てはひとりで思い悩んで海を見つめた時があった?」

ヒロが私に手を差し伸べてくれたこと。そこには少なからず弱さという共通点があったからヒロは私を気にかけてくれたんじゃないかって今は思う。