「下手くそだな」

ヒロはそう言って顔をこちらに向けた。その距離はかなりの至近距離で、息をするのも忘れるぐらい。


「え、あ……ごめん」と、しどろもどろになっている私の顔はきっと赤くなっている思う。

そんな私のドキドキを煽るようにヒロの手は私の頬へと優しく触れた。そしてゆっくりと顔が近づいてきて私は硬直したまま動けない。


唇が触れるギリギリの距離でヒロは止まり、なにか迷いが生まれたように顔は元の位置へと戻る。



「マッサージはもういいから少しだけ添い寝して」

誘導するようにヒロは私の手を引いて、そのまま一緒に布団に横になった。


いつも大人なヒロが甘えるように私のことを抱きしめてきて、今はドキドキよりも切なさのほうが強い。


普段のヒロなら絶対にしないことなのに、これがどんな意味を持つことなのか、私は分かっている。


ヒロは……私が気づいていることに気づいているんだね。



ヒロの匂い。ヒロの体温。

すべてが大好きなのに、じわりと私の瞳に涙が溜まっていく。



きみの病気を知って、それで美幸さんに色々と聞いたこと。平静を装っていても近づけないくらい心の整理がついてないこと。

それをヒロは全部気づいてて、不安定な私をこうして安心させるようにきつく抱きしめる。