ヒロは優しいから自分からはなにも聞かない。
でもヒロにだけは話さなきゃいけない気がする。

ううん、いけないじゃなくて、私が話したいのだ。


――『ただの父親ならサユはこんなに怯えたりしねーよ。今日は逃がしてやるけど、今度サユの目の前に現れたら……俺、あんたのこと殺すから』


私のために怒ってくれた。
私のことを守ってくれた。

そんな誰よりも大切なヒロにだから、私の一番隠したい部分を知っていてほしいと、今は思う。



「ヒロ私ね、あの男に10歳から暴力を受けてたの。今は別々に住んでいてアイツとは血の繋がりなんてないけど母の再婚相手だから事実上父親ってことになる」

言いながら、声まで震えてきた。


「殴られたり蹴られたりタバコの火を押し付けられたり。アイツにされたことは数えきれなくて。それ以来、男っていう生き物がダメになっちゃったんだ」


低い声や大きな身体は無条件に記憶を呼び覚ます。アイツに植え付けられた恐怖で、私は毎日怯えながら生きてきた。


「さっきあの男が言ってたアレはね、身体中に残ってる傷痕のこと。今でも夢にうなされたり5年前のことを思い出すと痛むんだ。精神的なことだって言うのは分かってるんだけど」

「………」

「ごめん。私、ヒロが思うよりずっと面倒な女なんだ」