人気がない海の砂浜へと移動したあとも、私はヒクヒクと子どもみたいに膝を抱えていた。
すぐにこうして不安定になってしまう自分が嫌いだ。
ヒロはあれからずっと無言だった。隣で海を見つめながら、その心でなにを考えてるのか想像するのが怖い。
今まできっとヒロは私の異変に気づきながらも、なにも聞かずにいてくれた。
真夏なのにずっとパーカーを着てること。
家に帰りたくないこと。
男の人に声をかけられるだけでひどく動揺してしまうこと。
過呼吸になるぐらい悪い夢を見ること。
そして父親だと名乗るあの男のこと。
それらは全てひとつの線で結ばれていて、私が隠し通したいあの5年間に繋がっている。
ヒロはあの男の言葉で、私がなにかされていたことに気づいた。
こうしてまだ傷痕が疼く身体を何度も擦っている私を見れば、おのずと答えは分かると思う。
「……ヒロ、さっきはありがとう」
きっとあの男は、私が思うより強くはなかった。すぐにヒロに力負けして、最後には怖じ気づいた。
私がヒロのように強かったら、たぶんこんなにも傷痕は増えずに済んだんだと思う。
今さらこんなことを思ってもどうにもならないけど、あんなヤツに心を支配されていたんだと思うと悔しくて仕方がない。