「……ハアッ……ヒ、ロ……」

最後の力を振り絞るように名前を呼んだ。薄れていく意識の中で、ヒロは静かに私の頬へと手を添える。


そして、暖かい感触が唇へと当たった。


ヒロの酸素が、私の身体へと入ってくる。


何度も何度もヒロは私の唇に触れて、そのたびにゆっくりと空気を渡してくれた。


「サユ、大丈夫だから」

私が自分で呼吸ができるようになると、ヒロは私を包むように抱きしめて、頭を優しく撫でてくれた。


……ヒロの匂い。私の大好きな香り。

冷えた心がほぐれていく。


ヒロの温もりを感じると、身体の震えが止まった。それと一緒に痛みも消えて、今は安心感で涙が溢れてくる。


「大丈夫、大丈夫」

ヒロは何度も私を落ち着かせるようにそう言ってくれた。

 
私を壊さないように、柔らかく隙間なくヒロは抱きしめながら、同じベッドで一緒に寝てくれた。


こんなにも優しい肌の温もりを私は知らない。



きみがいれば私は大丈夫。

ちゃんと私は、元の場所に戻ってこれる。