それから日が落ちはじめた頃、ヒロが家に帰ってきた。


「お、おかえり」


平常心を保ちながらも指先の体温はまだ冷たいまま。

あの男の声が電話を切ったあともずっと耳に残っていて、ヒロが帰ってくるまでの間に何回もトイレに駆け込んだ。


「なんかお前、顔色悪くね?」

ヒロと目が合ってそんなことを言われてしまったけど、「そうかな。普通だよ」と、笑って誤魔化す。


気づかれないように距離をとりながら、私はキッチンで美幸さんが送ってくれたものを温めようとしていた。

そして耐熱容器ごと電子レンジに入れて、コップを用意しようとした時。ズルッと手が滑ってしまい床へと落下していく。


……ガチャンッ。

床に散乱するガラスの破片。割ってしまったのはヒロがいつも使っているコップだった。