「っていうか、この子が持ってるのヒロのスマホ――」

そんな声なんて聞こえているわけがなくて、フラッシュの方向がずれた隙に私は砂浜を全力で走る。
 
 
「あ、逃げた!」

そんな背中越しで聞こえる声も無視して、私は急斜面の階段を駆け上がり、男たちから逃れた。 


住宅地へと戻ってきた私は後ろを振り返り、追ってきていないことに安心する。

 
「……ハア……ッ。痛っ」

私はブロック塀に寄りかかってビーチサンダルを脱ぐ。サンダルの鼻緒の部分が親指の付け根に擦れて、皮が剥けていた。


……最悪。走っていた時は無我夢中だったけど、相当痛い。

また履き直しても擦れる部分は同じだし、私は仕方なくサンダルを脱いで裸足になった。


どうせ誰も見てないし、そこの角を曲がればすぐに家だ。

そんな安心感が私に冷静さを取り戻させて、「あ……」と持ってきてしまった黒いスマホに今さら気づいた。