次の日。美幸さんの家で一泊して、私たちは午前中に帰ることになった。


「気をつけてね」

美幸さんは外まで見送ってくれて、ちゃっかりと私は連絡先まで交換させてもらった。


すでにバイクはエンジンがかけられた状態で、私も後ろに乗ったところだ。一方のヒロはあれだけ爆睡していたというのに、ハンドルを握りながらあくびをしている。


「ちょっと」

そんな様子を見ていた美幸さんが、ヒロのヘルメットを小突いた。


「んだよ」

定期検診でたまに美幸さんは私たちの街に来るとはいえ、毎日は会えないんだから、もう少し機嫌いい態度をすればいいのに。


「ちゃんとご飯食べて、バイトも頑張るのはいいけど、ほどほどにしなさいよ」

「んー」

「あとバイクの運転もあんまりスピード出しすぎないようにね」

「分かってるよ」

ご両親と上手くいってないヒロにとって美幸さんはお姉さんでもありお母さんのような立場なのかもしれない。


「それと……」と、まだまだ話が続きそうな美幸さんをヒロが「大丈夫だから」と強めに止めた。美幸さんは「もう」とため息をついていて、ヒロは無愛想にそっぽを向く。

不器用だけど、やっぱりふたりの関係性が羨ましい。


「じゃあ、行くから」と、ヒロがハンドルをブンッと回したので、私も会釈をしてヒロの腰に手を回す。


「サユちゃん。またいつでも遊びにきてね」

「はい!」

そしてバイクを走らせる寸前に美幸さんがヒロに最後の言葉を投げる。


「なにかあったらすぐに連絡しなさい」

心配と厳しさが入り交じるような声に、ヒロはゆっくりと頷いて私たちは美幸さんと別れた。