ジッと見てしまっていたから、視線を感じたのかもしれない。
邪魔をしてしまったことを申し訳なく感じながら手を振ると、ヒロは軽くこちらに手をあげて挨拶を返してくれる。
と、ちょうどその時、縁側に女将さんが現れたようで。
「ヒロ君、待たせてごめんねぇ。今旦那が用意してるから」
明るい声が庭に響いた。
「特に急いでないんで大丈夫です」
ヒロが答えて、女将さんが「そりゃ良かった」と口にしてから洗濯カゴを抱えて庭に出てくる。
そして、物干し竿の下にカゴを置いた後、トントンと腰を叩いた。
……もしかしたら、腰の調子が悪いのだろうか。
ヒロは男の子の話に付き合っていて、女将さんの様子に気づいていないようだ。
手伝いましょうか。
その言葉が喉までせり上がるも、声にならない。
余計なお世話だろうか。
人様の洗濯物を干すのは非常識ではないか。
でも、腰の調子がさらに悪くなったら、きっとここの仕事にも支障が出るだろうし、子供たちだって心配するはずだ。
悩んで、唇を引き結ぶ。
また女将さんが腰をさするのを見て、私の頭の中にリフレインするナギの言葉。
『もしかしたら、この島にいる間に少しは克服できるかもな』
心根の優しい人が多いからと。
そして、私は確かにあの時思った。
少しでも変われたらいい、と。