「そういや、今日はあの別嬪さんはいねえのか」
「ナツメ先輩のことか? いねえよ、今日は三年生はなしって言ったろ」
「そうなのか。あの子は美人だから、来るとみんな喜ぶんだけどな」
「ああ、確かに。ナツメ先輩がいたほうがやる気出るよなあ。カンナとスズだけよりも」
「ちょっとテット。その言い方何? 否定はしないけど、あとで殴るから」
「スズも殴ります」
「あ、す、すいません。つうか、父ちゃんだって割と失礼なこと言ってたぞ」

うろたえる息子を見ながら、元凶であるテットのお父さんは豪快に笑い、テットの背をすぱんと叩いた。

「若いのがいると作業が捗るし、華もあっていいよなあ。ボラ部のみんな、また今後ともよろしく頼むよ」
「あ、えっと」

思わず、みんなの顔を見てしまった。
ロクもスズも、背中を叩かれ咳き込むテットですら同じ反応をしていた。
わたしたちのおかしな表情を不思議に思ったのか「なんだおまえら、どうした」とテットのお父さんが首を傾げる。

「……いや、父ちゃん、言ってなかったけどさ、もう次からはこんなふうに参加できるかわかんねえんだ」
「はあ? そりゃどういうことだよ。こんなみみっちい仕事はもうできねえってか」
「そうじゃなくて。実はボラ部、夏休みまででなくなっちゃうんだ」
「なんだって! ボラ部がなくなるだと!」

その声に、公園内でばらばらと片付け作業やお喋りをしていた十数の人の目が一斉にこちらを向いた。
だが、視線を集めている張本人はお構いなしに息子のジャージの胸倉を掴み、さらに叫ぶ。

「廃部だなんて、誰が決めたんだそんなこと!」
「が、学校だよ。当たり前だろ。おれらが自分で辞めようとなんてするかよ」
「どうすりゃいいんだ。学校に殴り込みにいけばいいのか。みんなで校長を殴ればいいのか? それとも市役所か。よし、一揆だな!」
「やめて。父ちゃん、お願いだからやめて」

テットのお父さんが声を荒らげたせいで、周囲の人たちもなんだなんだと寄って来てしまった。
西高のボランティア部がなくなる。そのニュースはあっという間にその場にいた人たちに広まり、そこかしこでやいやいと騒ぎが起こり始めた。