「みんな、ちょっとした悩み相談なんかに使っているみたいです。スズもそうなんですけど」
「悩み相談って言ったって、どこの誰かもわからない人相手なんでしょ。向こうもこっちのこと知らないんだろうし」
「むしろそれがいいんですよ。ほら、今っておじさんレンタルとかあるじゃないですか。相手が赤の他人だからこそ喋れることってあると思うんです。それに、送ったメッセージに返事がなくても、吐き出せるだけで溜め込むよりはましでしょうし」
「まあ、確かに」

言わんとすることはわかる気がする。
親しいからこそ話しにくいことも、誰に聞いてもらえなくていいからただ叫びたいこともわたしにだってないわけじゃない。
そして今までそのほとんどを、どこにも零すことなく過ごしてきた。

「だからね、カンナ先輩もこのアプリ、始めてみたらどうですか?」

スズがぐっと詰め寄って来る。

「え、わたしが? いや、でも、ちょっとわたしには合わなそうかも」
「そう言わずに、お金だってかかりませんから。だってね、誰にメッセージが届くかわからないし、届いたものが誰からのメッセージかもわからないから、誰にも言えないような悩みも言えちゃうんですよ。不要になったらいつでもやめればいいですし、ね。先輩ぜひ」
「うぅ、わ、わかった」

きらきらした瞳になかば押し切られる形でアプリをインストールすることをスズと約束した。
少し面倒だけれど、これもスズなりの気遣いだろうし、とりあえずやってみようか。
それくらいの軽い気持ちだった。