帰宅時間になり、各々荷物をまとめて部室を出た。
校門まで向かう途中、最後尾をとぼとぼ歩いていたわたしの隣に、そっと並んだスズが、少し不安げな顔で覗き込んできた。
「あの、カンナ先輩、ちょっといいですか」
「うん、何?」
「もしかして、ですけど、先輩、バンドやるの嫌でした?」
声をひそめて、おそるおそるといった様子でスズが言う。
「そんなことないよ。なんで?」
「なんだか難しい顔をしているので。ボーカルだって曲作りだって、カンナ先輩はやりたいって言ってたわけじゃないですし、もしかして嫌々だったのかなって思って。そうならやる意味ないですから、スズからみなさんに言いますよ」
「いやいや、大丈夫。そんなこと思ってないよ」
慌てて両手を振った。確かに積極的ではないけれど、決してやりたくないわけではない。
「任された仕事はちゃんとやるつもりだし。みんなでバンドを組むこと自体はすごく楽しみにしてるから、心配しないで」
「だったらいいんですけど……でももし何か悩みがあるなら、あまり抱え込まないほうがいいですよ。どんなに小さなことだって、絶対に」
もしかして相当悩んでいるように見えたのだろうか、スズはまだ気掛かりがあるような顔をしていた。
スズは、普段から周りのことをしっかり見ているだけあって、些細な変化にもすぐ気づく子だ。
あまり心配をかけないようにしなければと、わたしの肩の位置で揺れる丸い頭を見ながら思う。
そのとき、突然スズが「そうだ」と声を上げ、鞄から、スズらしい可愛いカバーを付けた携帯電話を取り出した。
「先輩、『フタリゴト』っていうアプリ、知ってますか?」
「ふたりごと?」
「今流行ってるんですよ。スズもクラスの子に勧められて最近始めたんですけど」
スズは、携帯の画面をわたしに見せた。
そこには、爬虫類のような、そうでもないような、謎のキャラクターが一匹映し出されていた。