オリジナル曲を作ろうと聞いて心惹かれないわけではない。
ナツメ先輩の言うとおりコピーとは違う楽しさがあるだろうし、単にバンド演奏をするだけならその日一日の記憶が思い出になるだけだけれど、オリジナルの曲があればそれがいつまでも形として残ってくれる。
けれど、だからと言って曲作りだなんて、したこともないわたしに突然任せられても困る。
ボーカルを請け負うのとはわけが違うのだ、経験も技術もないのに「ハイやります」とは言えない。
「アレンジはみんなでやればいいから、作詞と作曲をしてくれればいい。できるだろ、メロディーなんてむかしっからよくでたらめ弾いて作ってたんだから。作詞だって、国語ができりゃ十分だ」
「それならロクがやればいいじゃん」
「おれはテットにベースを教えなきゃなんねえし、テットはベースを練習しなきゃ駄目だろ。スズだって雑務を任せるから忙しくなるだろうし」
「じゃ、じゃあナツメ先輩ならどうですか? 最初に提案に乗ってましたし」
「オリジナルを演奏することには乗った。作ることには乗ってない」
「……ですよね。ちなみにマサムネ先輩は」
やりたくないことは絶対にやらないナツメ先輩を説得することは早々に諦めて、その向かいに座る頼れる部長に助けを求めた。
歌が下手だとしても作詞作曲には関係ない。しかし。
「悪い、カンナ。やりたいのはやまやまなんだけど、おれもドラムの技術に不安があるから、自分の練習に集中したほうがいいかも。たぶんそのほうがみんなに迷惑かけない」
「そう、ですよね」