「先生にちょっと考えがあるんだけどさ。バンドするならコピーもいいけど、オリジナル曲を作るってのはどうかな?」
「オリジナル?」
「そう。演奏する曲全部ってのは難しいだろうけど、一曲くらいならできるんじゃないかなって。自分たちだけの曲をさ」
「自分たちだけの、曲、ですか」
未経験者もいる即席の、しかもステージに立つのは一度きりのバンドで、さすがにオリジナル曲を考えた人はわたしを含めいなかった。
みんな一瞬ぽかんとして、窺うようにそれぞれの顔を見合った。
オリジナルの曲。他の誰が作り、歌ったわけでもない、わたしたちだけが歌う歌。
意外にも、それに一番に賛成したのは、ナツメ先輩だった。
「オリジナルね。ただ既存の曲を演奏するだけってのもつまらないから、ありかもね。楽しそうだし、わたしはそれでもいいよ」
ナツメ先輩の言葉に、次はマサムネ先輩が頷く。
「確かに、自分たちの曲があったら嬉しいし、一層思い出にも残りそうだな。でも、曲を作るなんて簡単にはできないだろ。今から曲を作るとなると本番までに間に合うものなのか?」
マサムネ先輩がロクを見た。ロクは顎に手を当て、しばらく考え込んだ。
「そうだな……プロほどの出来栄えじゃなくてもいいんだから一曲なら無理じゃないだろうけど、他の曲もあるから、それの練習状況次第ってとこかな。曲の制作と他の曲の練習を同時にやって、後半はオリジナル曲の練習に集中できるようにしたらなんとかいけるんじゃねえか。絶対に無理じゃない限り、できる可能性はあるだろ」
ロクの目が、つとわたしに向いた。
その視線にさっきまでよりもさらに嫌なものを感じ素早く目を逸らす。
「無理だよ。ロク」
「まだなんも言ってねえよ」
「あんたの言いたいことはわかってる」
「さすがだなカンナ。じゃあ話は早いよな。よろしく頼むよ、作詞作曲」
「待って待って待って」
やっぱりだ。予感的中。ロクはたまに、とんでもなく馬鹿なことを考える。