嫌な予感はしていた。ロクがテットに賛成したときから変だと思っていたのだ。
わたしのよく知る幼馴染みは、普段ならまつりのステージに立つだなんて目立つことは嫌う人間だ。
それなのに、今回のことに誰よりも乗って、バンドを組むという提案をしたのは、他でもない、わたしを歌わせるため。
「カンナ先輩がボーカル、ですか?」
「大丈夫なのかよ。カンナなんて下手したらおれより華ねえじゃんよ」
「おまえらな、カンナの歌を聴いたらきっと腰抜かすぞ」
「ちょっと待ってロク。わたしもギター弾けるんだし、やるならギターでいい」
わたしのギターの腕はロクと変わらない。
何せ小学校に入ったばかりの頃に同時に始め、それからずっと一緒に弾いてきたのだ。
バンドを組むこと自体に異論はないけれど、やるならボーカルではなくギターがいい。ロクと、ふたりで合わせて弾けばいい。
「そうだな、カンナもギターをやるのはいいと思う。ただ、ボーカル兼ギターだ。歌う奴がいなくちゃバンドになんねえからな」
「ボーカルは、誰か助っ人を呼ぶとかしたら」
「そんなんだったらやる意味ねえだろ。おれたちだけでやらねえと。そうだろテット」
「そりゃロクの言うとおりだぜ」
「でも」
「まあ、おまえがどうしてもやりたくねえって言うなら無理強いはしねえよ。スズにも言っただろ、無理にやったって楽しくねえんだから」
ロクがふっと目を逸らし肩をすくめた。
わたしはくちびるを結びながらロクの横顔を睨み、それからまだこっちを向いているみんなの目を順に見ていった。
ナツメ先輩。テット。スズ。マサムネ先輩。
「カンナ、どうする? おまえの好きにしたらいいよ」
マサムネ先輩が訊いてきた。わたしは軽くくちびるを噛んだ。