「テットの提案は面白いけどさ、わたしはダンスなんて無理だよ」

ナツメ先輩が頬杖を突きながら、普段どおりに淡々と意見する。

「日本舞踊ならできるけど。でもそれって絶対あんたがイメージしてるのと違うよね」
「……まあ確かにそうっすね。ナツメ先輩のワンマンショーならともかく」
「ス、スズも駄目ですよ! 人前で何かやるなんて、そんなの、絶対に気絶します」
「そうだよな。おれもできそうなことって特にないから、どうだろうな」
「ええ、マサムネ先輩ってばなんでもそつなくこなすじゃないっすか!」
「ならテットは何ができる?」
「それは……えっと、あ、清掃活動なら得意です」
「それいつものボランティアじゃねえかよ」
「うぅ……ボランティア活動ならやれるんだけどなあ」

やはり、ダンス部や吹奏楽部ならともかく、普段から日の当たらないことばかりしているわたしたちが急にステージに立とうとしても難しい。
これは無理だろうと、わたしもみんなと同じように言おうとした。
しかし、それより先に意外な人がテットに賛成した。ロクだ。

「おれはいいと思う。七夕のステージ。テットに乗るよ」
「え、まじで? おまえが一番乗ってこねえと思ってたよ!」
「それに、やりたいことがある。おれたちにやれることだ」

ロクは、自分に向く視線ひとつひとつに目を合わせ、最後にわたしを見た。
小さく笑う幼馴染みの表情に、少しだけどきりとした。

「バンドを組もう、おれたちで」

ロクが言う。古びたむかしの校舎の壁が、吹き抜ける風に音を鳴らす。

「おれはギターが弾ける。ナツメ先輩はピアノがめちゃくちゃ上手いから、キーボードを担当できるだろ」
「ああ、いいね、それならやれるよ」
「バンドか……だったらおれ、少しならドラムが叩けるよ。兄貴がやってたから教えてもらったことがあるんだ」
「ならマサムネ先輩はドラムで決まりだ。それからスズは」
「すみません、スズはやっぱり無理です! なので裏方として先輩方のお手伝いを色々とさせていただきます。そっちの仕事のほうが好きですから」
「まあ、スズはそのほうが向いてるか。無理にやっても楽しくねえからな」
「おお、おお、いいね! なんかやれそうな感じじゃねえか!」

テットが興奮した様子で机を叩く。