彼女が大きな声を出し
私の身体から子供を剥がそうとするけれど、私は絶対返すものかと子供をギュッと抱きしめてから彼女の身体を足で蹴り、身をひるがえして走り出す。
胸の中で小さな命が脈を打つ
絶対渡さない
離さない
この命は誰にも奪えない。
背中から聞こえる彼女の大きな叫び声。
それでも私はひたすら走る。
息を切らし
心臓を鳴らし
身体が悲鳴を上げようと
スピードを落とさず
行くあてもなく必死で走り続ける。
景色が流れて溶けてゆく
ノブ君ごめんなさい
迷惑かけてごめんなさい
目を潤ませて走る自分を『これが感情なんだ』と、醒めた目で見るもうひとりの自分がいた。
銃声が鳴り
左足に熱い物がかする。
石畳の道路に弾の雨が降る。