卵を産む日がやってきた。
その朝
「送ろうか?」ってノブ君は言ってくれたけど、私は首を横に振る。
一週間前に政府から産み場の通知が来た。
数ヶ所ある産み場の中で私が指示されたのは、百貨店の斜め向かいにある建物だった。
いつも見てるけど中に入るのは初めてで、少しだけ緊張している自分がいる。
通知には産み場に入る時間と、当てられた自分の場所が英数字で書いてある。
ノブ君は私に近寄り優しく抱きしめる。
甘い花の香りがした。
「帰って来たら休んでなさい。夕食は僕が作る」
「ありがとう」
帰って来るのは私一人
卵はもう帰らない。
「あ……寝室の窓を閉めるのを忘れたかもしれない」
「僕が閉めてくる」
ノブ君の身体が私から離れ
寝室にその姿を見送ってから
私は素早く彼の仕事カバンからある物を盗み出し
そっと自分のポケットに落した。
「窓は閉まってたよ」
「ごめんなさい。ありがとう」
ポケットの丸い物と
お腹の中の丸い物
上手に繋がればいい。