「昔は人間も、卵じゃなかったんだって」
ノブ君は私の隣に座り
寝室から持ってきたブランケットで2人を覆う。

「ごめん起こした」

「大丈夫」

ノブ君に身体を預ける。
回された彼の手が私の頬を触る。
ふと見えたトカゲに唇を寄せキスをする私。

「卵じゃなくて産んでたの?」

「そうだよ」

「パンダみたいに?」

「そうだね。パンダみたいだね」

穏やかな声は、夜中に飲むホットミルクのように温かく安心できる。

「卵の時代でよかった」
私がそう言うとノブ君は笑い
また「そうだね」と言ってブランケットの上から私の腹部に手を当てる。

「眠れないの?」

「うん。何かお話して」

テレビの画面はパンダから草原に変わり
ライオンがガゼルの子供を襲って食べていた。

「何のお話?」

「昔々のお話」

昔々のお話は

地下の人達からノブ君が聞く話。

彼の声は調律された楽器のように
心地良く正確で
彼の言葉は音を紡ぐ。