「あら?あなたも?」
ガラスのカウンター越しに声をかけられ
営業用の顔を上げると
質の良い
暖かそうなコートを着た女性が立っていた。
薔薇色の頬に艶のある髪
人を疑う事のない眼差し
守られている自覚と自信が見える、丘の上に住むお嬢様。
彼女の後ろでは
彼女によく似た年配の女性が、優しく見守っていた。
彼女は遠慮なく私を見てから
自分の首筋を指さす。
そこには私と同じくらいの明るさの青い光がうっすら見えた。
「女の子が欲しいの。今日は記念にベビーリングを買いに来たの」
邪気のない笑顔が毒のよう
私は「はい」と返事だけして
さりげなく別の人に交代し
ふらふらと死人のように
売り場の奥から裏口を求めて外に出る。
外の空気を大きく吸い込み
ふーっと長く長く息を吐き目を閉じる。
ひとつ……ふたつ……数を数えて気持ちを落ち着かせたら、息苦しさが消えた。
街が……変わりつつある
音の種類が広がっている。
売り場に戻ろうとすると
何か小さな瓶を靴のつま先で弾いてしまった。
それはトイレに捨てた私の錠剤と同じ物。
拒否が広がる
羊たちは動き出す。