「全然お正月って感じがしないよね。でもさすがに観光客はあんまりいないね」

いつもの俚斗より少しだけ早口な気がした。


「みんな初詣かな?通りかかった神社もすごい行列だったよ。俺もおみくじぐらいは引きに行けたらいいけど」

なにかを誤魔化すように喋り続ける俚斗を見て、私は息をはくように聞いてみた。


「……昨日、待ってた?」

ずっと気になっていた。約束はしてないし、待ち合わせをしていたわけでもなかったけれど、毎日会うことが習慣のようになっていたから。


「うん」

サラサラと揺れる前髪から見えた瞳には寂しさがあった。

どれくらいこの場所で私のことを待っていたんだろう。足音が聞こえるたびに振り向いて、違うとまた視線を落としての繰り返し。それを想像しただけで胸が詰まる。


「……ごめん。熱でちゃってさ」

「え、熱!?」

また俚斗の声が響いた。そして今度は心配そうな表情をして、私の顔を覗き込むように首を傾げる。


「……大丈夫なの?」

「大丈夫だから来たんだよ」

「それなら良かった」

俚斗がやっと笑ってくれて、私も安心した。