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結局、私は俚斗のところには行かなかった。いや、正確には行けなかった。

寺本の話を聞いてからずっと目が覚めるような想いが続いていて、自分がいつ眠りについたのか覚えていない。

枕元のスマホを確認すると、すでに年度と暦が変わっていた。時間は8時過ぎ。

しかも画面には何故かお母さんからの着信履歴が残っていて、俚斗のことで今は頭がいっぱいなのに、どうやら神様は新しい年になっても私に優しくするつもりはないらしい。


「小枝、明けましておめでとう」

リビングに行くと、おばあちゃんがこたつでテレビを見ていた。


私の心とは裏腹に、テレビの中では『初笑い』と称した芸人のお笑い番組をやっていて、世間はすっかりお正月モード。

めでたい新年だというのに、こんなに晴れやかじゃない気分なのは私だけなんじゃないかな。


「うん。明けましておめでとう」

私はそう言いながら自然とこたつへと身体を入れる。


「熱、下がったみたいね」

おばあちゃんが私の顔色を見て安心したような声を出す。


「うん。寝てれば大体いつも一日で治るよ」

今回は精神的に長引くかなって思っていたけど、起きたら頭痛も怠さもすっかりなくなっていた。

「はは、丈夫なところは尚子そっくり――」とおばあちゃんが言葉を言いかけて、不自然に咳払いで濁す。

おばあちゃんはなんだかんだ言って、いつもお母さんのことを気にかけているのは知っている。

当たり前だ。お母さんはおばあちゃんのひとり娘なんだから。いつまでも埋まらない確執があるのは、私のほうだ。