「ひとりで大丈夫?」

私が玄関でブーツを履いていると後ろでおばあちゃんが心配そうな顔をしていた。


「はは、平気だよ。何度も行ったことあるしさ」

「それにもう子どもじゃないんだから」と続きの言葉が喉をかすめたけれど、今日から少なからず迷惑をかけてしまう状況でその言葉は違うと飲み込んだ。


「また吹雪いてくるかもしれないから気をつけてね。それから外は冷えるからこれ持っていきなさい」

おばあちゃんが渡してくれたのは使い捨てカイロ。お腹に貼る用と手を暖める貼らない用の二種類。


「ありがとう」

そう言って手のひら出してカイロを受け取ろうとした時、おばあちゃんがすぐに〝あること〟に気づいた。


「あら?小枝こんなところに傷跡なんてあったっけ?」


それは右の手のひらにできている古傷の跡。一皮剥けたような傷は何年も前からあるけれど、それがどうしてあるのか、一体いつできたのかは覚えていない。


「たぶん小さい時に薪ストーブにでも触ったんだと思う。ほら、ストーブの上のやかんに触ろうとしてよくおばあちゃんに怒られてたじゃん」

「そうなの?こんなに跡が残っちゃって……」

「平気だよ、べつに」

心配するおばあちゃんを宥(なだ)めながら私は家を出た。