身体と身体が触れ合わないギリギリの距離。俚斗は窓に右手をついていて、俚斗が作り出した空間に自分がすっぽりと入ってしまったような気持ちになって顔が熱くなる。
バスはゆっくりと動き出したのに、俚斗の体勢はそのままだった。
「り、俚斗……?」
呼吸の仕方を忘れるぐらい心臓がうるさい。車内の温度は快適なはずなのに身体が硬直して動かなかった。
「小枝は女の子なんだから、もし男が本気の力を出してきたら絶対に勝てないよ」
俚斗の低い声が耳元で響く。
「だから危ないことはしないって約束して」
「………」
「はい、は?」
窓越しの俚斗が真剣な瞳をしていて、いつも可愛い顔をしてるくせに、こんな時だけ男の顔をするなんてズルいと思う。
「……はい」
それでも俚斗を怒らせたら怖そうだから私は素直に従った。すると俚斗はニコリと優しい顔に戻って私の頭を撫でる。
「いい子」
それはもちろん直接じゃない。
窓に映る私の頭を指で撫でるように動かすだけ。それでも本当に俚斗に触れられた気がして、また胸が高鳴ったのは私だけの秘密だ。
「ねえ、小枝。明日もデートしようか」
「へ……?」
たぶん私はかなり間抜けな顔をしていると思う。
まだ返事もしてないのに俚斗は「約束ね」と今度は男らしい顔じゃなくて可愛い顔をして言うから、私の心臓は追いつかない。
ドキドキとうるさくて、いつか壊れてしまうんじゃないかって本気で思う。