窓に映る自分の顔があまりの形相で、こんな顔は見られたくないのに窓越しの俚斗は私のほうを向いていた。


「ありがとね。怒ってくれて」

「だからべつに俚斗のためじゃないって」

「うん。それでもありがとう」


……あれ。なんだか今日は俚斗と座っている位置が近い。

いつもと同じバスの最後尾だけど、椅子と椅子との間に肘掛けや仕切りがないから俚斗は私と身体が触れ合わないような距離感で座っていたのに。

意識した瞬間から何故かまたドキドキとしてきて、窓に映る顔が鬼の形相から戸惑う顔に変わっていた。


「でもさ、もう言い返したり、睨んだり、危ないことはしないでね」

俚斗がそんなことを言うから私はまたムッとする。


「なんで?」

「危ないから」

「危なくないし。あんなヤツ見掛け倒しだよ。本当に怖い人っていうのはさ……わっ!」

と、その時。バスが突然急ブレーキをかけて身体が前のめりになった。


その勢いで窓におでこをぶつけそうになったけど、なんとか当たらずに済んでハッと顔をあげると窓に映る俚斗の顔が私の耳の横にあった。

ドキッとした。