誰のことを言ってるんだろうと戸惑ったけれど、その視線はどう見ても俚斗のほうに向いている。
……そういえば俚斗の名字って吉沢だったっけ。
「いつも朝からいねーと思ったらこんなところでフラフラしてたのかよ」
「………」
乱暴な口調で話しかけてくるこの人はどう見ても俚斗の友達とは思えない。それどころか俚斗は気まずそうに顔を曇らせていて、その瞳は明らかに震えていた。
「えー、なになに寺本の知り合い?」
「うわ、めっちゃイケメンじゃん!」
「うちら今からあそこの旅館で日帰り温泉入りにいくんだけど一緒にどう?」
寺本と呼ばれる人の周りには同じように派手な友達がいっぱいいて、その中でも女子たちは俚斗を見るなり猫なで声を出して近づいてきた。
俚斗はずっと無言のまま。
さっきまであんなに楽しそうにしてたのに、なにかに怯えるように身体もどんどん小さくなっていく。
「……俚斗?」
私が顔を覗き込むと前髪の隙間から目が合って、それは幼い子どものような瞳をしていた。