そのあと私たちは白ひげの滝を離れてまたバス停へと向かった。思いのほか長居してしまったせいで身体が芯まで冷えてしまっている。
バス停の近くには旅館があって、大きなカバンを持った旅行客や日帰り客の姿が目に入った。
「温泉入りたいね」
隣で俚斗も同じようにその人たちのことを見ていた。
「……俚斗って温泉入るとどうなるの?」
お風呂もそうだけどお湯が一瞬で氷水になっちゃうとか?奇病のことは理解してるつもりだけど、やっぱり頭で考えると分からないことだらけだ。
「……確かめてみたい?一緒に入る?」
ほら、そうやってすぐいたずらっ子の顔になる。
「あのさ、一緒に入るとか意味わかって言ってんの?」
私はため息をつきながら強めの口調で言い返した。
「わかってないように見える?」
「うん」
「えーひどいな。これでも健全な男子なのに」
俚斗はわざと悲しい表情をしながらも、からかうような瞳で私を見つめる。
普段の俚斗は喋り方も性格も穏やかだから健全な男子と言われてもいまいちピンとこない。
それでも見上げなければ顔が見えない背丈とか、寒さを感じさせない広い背中とか、雪道についた大きな足跡とか、たまに見せる艶っぽい眼差しとか、私の胸を無条件でおかしくさせるスイッチはいくつもある。
そんなこと口が裂けても本人には言わないけど。
そんな他愛ない会話をしながらバスを待っていると、騒がしい声とともにその足音が私たちの後ろで止まった。
「あれ、吉沢じゃん」
振り向くと、そこには茶髪でピアスをした男の人が立っていた。