「青い池は凍ってるのに滝は凍らないんだね」

「このぐらいの気温じゃ滝は凍らないよ。あ、でも北海道で見たいなら層雲峡(そううんきょう)に行けば氷瀑まつりっていうのがやってるらしいよ」

「ひょう……ばく?」

「うん。時間が止まったみたいに滝が凍るの。まあ、あそこら辺には大雪山(だいせつざん)もあるから寒さは尋常じゃないけどね」

「本当に色んなことを知ってるんだね」

「まあ、17年間北海道民ですから」

俚斗は寒さに慣れているせいかあまり寒そうじゃない。私なんてお腹と足にカイロを貼って、コートの中には3枚も上着を着ているっていうのに。

だけど俚斗の耳をよく見てみると、ほんのり赤くなっていてそれがちょっと可愛い。


「俚斗はさ、この町から出たいと思ったことはないの?」

気づくと水しぶきをあげる滝を見ながらそんなことを聞いていた。すると俚斗は少しだけ間を空けて静かにその唇を動かした。


「あるよ。何度もある。でもこんな身体だし、どこへ行っても同じ気がしてる」

俚斗の瞳がわずかに震えた気がした。