それから俚斗は薬のおかげなのか空元気なのか、いつもどおりの表情になった。
そうやって大丈夫と大丈夫じゃない波を断続的に繰り返して、俚斗は生活してるんだろう。
心配だ、ものすごく。
俚斗に言ったら困るだろうけど。
「ここに来るまで滑らなかった?」
そして俚斗は自分のことよりもすぐに私を気にかかる。
「うん。大丈夫」
今日の地面も不安定だったけど、昨日ほどツルツルしてないから観光客たちもへっぴり腰になりながらも転んでる人はいなかった。
俚斗が「はあ……」と深呼吸すると白い息が空へと溶けて、やっぱり俚斗は立っているだけでかなり目立つ。
女子たちが隙あらば声をかけようとソワソワしてるっていうのに本人はずっと池のほうばかりを見ているから、その視線と目が合うことはない。
「ねえ」
なのに、隣にいる私にはお構い無しに目を合わせてくるから「あの人彼女かな……」なんて誤解されてしまっている。
「なに」
ああ、思わず仏頂面で返事をしてしまった。
「ライトアップ見るのいつにする?夜だからあんまり寒そうじゃない日がいいよね」
ライトアップ……。そういえば約束したんだっけ。
俚斗にはわるいけど色んなことがあって少し忘れかけていた。とくに今朝の出来事はけっこう落ち込んだというか、気持ちが逆戻りしそうになった。
私のことやお母さんのことなんて他人なんだからさっさと忘れてくれていいのに、みんな私たちを関心の中にいれたがる。
人の不幸は蜜の味っていうけれど、晒されるほうの気持ちも考えてほしい。
だから私はいつまで経ってもこんな風に……。
「……小枝?」
俚斗の呼び掛けに私はハッと我に返った。
「ぼーってしてどうしたの?」
俚斗が心配そうな顔をしていた。