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そして私は今日も青い池に行く。清みきった空気を肺に入れると不思議と息がうまく吸えた気になった。
俚斗はすでにいつもの場所にいた。
いつもその大きな背中はまっすぐ伸びていて遠くからでも見つけることができるのに、今日の俚斗はちょっと違う。
「だ、大丈夫……?」
声をかけると、俚斗は手すりを掴みながらこっちを見た。その顔は明らかに具合が悪そうだった。
「あ、さ、小枝っ」
慌てたようにニコリと笑顔を浮かべる。
俚斗のポケットからは薬の瓶のようなものが見えて、こうして常に持ち歩いてるんだと思うと胸がギュッとした。
「どこか痛いの?」
「ううん、もう平気。痛み止め飲んだから」
「でも市販の薬でしょ……?」
「効果はあるよ。だから本当に平気。心配しないで」
そしてまたニコリと笑う。
〝心配しないで〟が〝心配されたくない〟と聞こえてしまったのは私の心が屈折してるからだろうか。
ううん、俚斗はきっと心配されたくないのだ。
私に、とかじゃなく、この奇病のことで周りに迷惑をかけることをだれよりも嫌がる人だから。