「えっと……ごめん。俺スマホ持ってない」

「え?」

一瞬冗談かと思ったけど俚斗の顔を見てこれは本当のことだと分かった。

……このご時世にスマホを持ってない人がいるなんてビックリした。うちのおばあちゃんでもシニア向けのスマートフォンを持ってるっていうのに。


「あんまり俺には必要ないし」

「必要ない……?」

「うん。だって俺こう見えてけっこう逃げ足速いから襲われたりしないもん」

またいたずらっ子みたいな顔。


そもそもスマホは防犯対策のために持ってるんじゃなくて……って、私がそこまで説明しなくてもいいか。

それに私だってスマホに依存するタイプじゃないからきっとなくても生きていけちゃう。


でもそう考えると仮に俚斗が池に来なくなったり、私が明日突然いなくなったら、私たちを繋ぐものはなにもないんだなって思った。


そしたら俚斗は私のことなんてすぐに忘れてしまうだろうか。

それとも嬉しそうに語っていたいつかの友達みたいに、綺麗な思い出のままいつまでも覚えててくれるだろうか。

だけど、その前に。

私のことを忘れても忘れなくても、俚斗がひとりでまたこの場所に来ることを考えたら胸が少しだけ苦しくなって、やっぱり今日の私はどこかがおかしい。