「だ、大丈夫?」
尻餅をついてしまった私を俚斗が心配そうに見る。
「大丈夫。……でも痛い」
まさかこの歳になって盛大に転ぶとは思ってなかった。周りも滑っているから不思議と恥ずかしさはない。だけど強打したお尻がじんじんする。
「……痛いよね。カチカチだもんね」
同情する俚斗を見ながら私はやっと立ち上がって、濡れたお尻を気休め程度に叩(はた)いた。
手に持っていたコンビニの袋は無事でおにぎりも潰れてない。これで漫画みたいに袋がぶっ飛んでたら笑い者になるところだった。
「ごめんね」
何故か俚斗が申し訳なさそうな顔をしている。
「なんで俚斗が謝るの?」
「………」
俚斗はそのあとなにも言わなかったけど、私には助けてあげられなくてって意味に聞こえた。
俚斗は優しい。だから多分、誰かが困っていたら自然と手を差し伸べてしまう人だ。
さっきだってそう。無意識に私に手が伸びていたけれど、俚斗は寸前で躊躇してその手を引っ込めた。
……そんな気持ち、切り捨ててしまえば楽なのに。
とことん薄情になってしまえば、誰かが転んでも転びそうになっても助けられなかったって胸を痛めることはない。
でもそれができない人なんだ、俚斗は。
だから人との関わりを避けられない学校には行かない。手を差し伸べれば傷つくのは自分じゃないことを知ってるから。