そしてのんびりと支度をして私が家を出たのが11時ちょっと過ぎ。駅に向かう途中でコンビニのおにぎりを買ってバスに乗った。
昨日中途半端に雪が溶けたせいで路面はツルツル。もちろんそれは青い池へと続く遊歩道や池の周りも同じで観光客たちの叫び声が聞こえると決まってそこでは誰かが転んでいた。
「歩き方、下手くそだね」
今日の俚斗の第一声。
私も転ばないように自然と中腰になってしまっていて、一歩歩き進めるだけで怖い。
「な、なんでそんなに普通に歩けるの?」
俚斗はまったく滑る気配はなく、周りがこんなに転んでるのが嘘みたいに普通に歩いている。
もしかして靴底に秘密があるとか?
私のブーツにも一応滑り止めがついてるはずなんだけど、全然効果を発揮してくれない。
「歩き方にコツがあるんだよ」
「コツ?ちょっと今すぐ教えて」
俚斗はクスッと笑って「仕方ないなあ」と上から目線で話す。
「簡単だよ。すり足で少し歩幅を狭く歩くんだよ。ペンギンみたいな感じで」
「ペ、ペンギン?」
ちょっとペンギンの歩き方が明確に浮かんでこないけど、おそらくこんな感じだろうと歩いてみる。
たしかに滑らない。
「ほらね」とまた俚斗が鼻を高くするから悔しくなって、歩くスピードを速めると勢いよくズルッと身体が傾いた。
「わっ……!」
世界が反転したように空が見えて次の瞬間、大きな俚斗の手が瞳に映ったけど、それが私の身体へと伸びてくることはなかった。