おばあちゃんはそのあとやかんに入れたお湯と蒸しタオルを持ってきてくれた。
そして露出している管と蛇口にタオルを巻きつけて、上からお湯をかける。
「ゆっくりね。一気にかけると破裂する危険があるから」
「こう?」
凍っていた銀色の菅がまるでお風呂上がりのようにホカホカになって、再び蛇口を捻ると今度はちゃんと水が出てきた。
「さすがは慣れてるね」
「ふふ、生まれてからずっと北海道民だからね」
「ずっと?おじいちゃんとも北海道で知り合ったの?」
「そうよ。旅行も函館や稚内(わっかない)に行くぐらいだったし、実は内地にはほとんど行ったことがないのよ」
「東京も……?」
「東京なんてテレビの中の世界よ」
たしかにおじいちゃんは仕事一筋で、旅行も数えるほどしか行ったことがない人だった。だから飛行機に乗って北海道以外の場所に行くという考えがそもそもなかったのかもしれない。
「東京、行ってみたい?」
「うーん、いつかはね」
東京なんて私からしてみたら全然いい場所ではないけど、おばあちゃんに恩返しができるのなら、いつか連れて行ってあげたい。
でもそのいつかがいつなのか想像もできないから、約束することはできないけど。